シチュエーション1:
自室のドアを開けたらそこに知らない男がいました。
「ヒッ!」
「おっ?」
「だっ…え、だれ?!」
「ええーと…そちらこそ?」
「いや、いやいやなんでですか! そちらこその意味がちょっ……あ、そうだけいさつ! とにかく警察に電話を……!」
「あ、ダイジョーブダイジョーブ! 俺別に怪しいもんじゃないからあー」
「他人の部屋に侵入してる時点ですでに十分怪しいですよおおおお!」
「ていうかあ、あれ? ここ俺の部屋じゃないの?」
「葛木の部屋です!」
「203?」
「202!」
「え、まじでえ? うわーなんか間違っちゃったあ。ごめんごめん」
「間違った以前にそもそもどうやって入ったんですか鍵閉まってるのにい!」
「俺基本出入りは窓なんだよねえ」
「ここ2階ですけど?!」
「不可能を可能にするのが小さい頃からの夢だったんだ」
「とりあえずその夢よそでやってもらっていいですか!」
「にしてもー、部屋間違えちゃったのはさすがに今日が初めてだなあ。知らないひとん家で目ぇ覚ますのはよくあるんだけど」
「もっとしっかり生きて!」
「これもなんかの巡り合わせかなあ。じゃあそのついでにとりあえずご飯でも食べよっか!」
「全くなんのついでか分かりませんが……って、え、ごはん?!」
「あっ、ていうかここ胃薬ある? ちょっと連日飲み歩いてたらそろそろ胃がねえ……」
「ご飯もないし胃薬も出しません! とっ、とにかく帰ってください不法侵入者!」
「あ、俺エミちゃんですー」
「はっ?」
「侵入者じゃなくてえ、コウノエミ。幸せな野原に笑うって書いて、幸野笑」
「……は、ハッピーな名前ですね…」
「よく言われるー」
「ていうかなぜに今さら自己紹介を……」
「一緒にご飯食べるんだから礼儀でしょ?」
「礼儀うんぬん言うならまず窓から入ってくるのやめてもらえますか」
「君の名前はなんてーの?」
「……か、葛木ですけど」
「カツラギ?」
「葛木歩。葛餅のクズに木って書いて、歩く、それでアユムです」
「男の子みたいな名前だねえ」
「女の子みたいな名前してるあなたに言われたくないです!」
「ははは、それもよく言われるー。まあ俺のことは気軽にエミちゃんって呼んで!」
「呼べるかあ!ですよ!」
「えー、なんかアユムくん変なしゃべり方するね。敬語?」
「地ですこれが!」
「あ、なんか俺今ものすごくハヤシライス食べたいなあ。アユムくん作れる?」
「作れても作りません! とにかく帰れ!です!」
「つれないなあ」
「大体他人にご飯食べさせてあげられるほど余裕のある生活送ってないんですよ! 貧乏苦学生なんですこちとらあ!」
「あれ、お金の心配してたの? そしたら食材費分くらい俺が出すよ」
「すわっ!」
「おお、目付きが変わった」
「ししし食材費って……まさかお金くれるんですか……!」
「うん。だってお金ないから作ってくれないんでしょ? 俺ハヤシライス食べたいしい」
「だっ、大富豪ですかあなたはああああ!」
「…え、そこまで?」
「ただの迷惑でおかしなひとかと思ったけど、思わぬ福の神ご来臨じゃないですか……! か、神様は葛木を見捨てていなかった!」
「そういえばアユムくん、一人称永ちゃんみたいだねえ。葛木、って」
「エイキチ・ヤザワは葛木の神様です!」
「え、てことは俺もしかして永ちゃんに遣わされたの? 永ちゃんからの使者なの?」
「思い上がらないでください!」
「うわあごめんなさい」
「まあまあいいでしょう仕方ないお金まで出すと言われたら作りましょうハヤシライス!」
「ひゅうひゅう、いいぞいいぞアユムくーん。俺は甘めが好きだなあ」
「リクエストは却下です!」
「お金…」
「受理します!」
「うわあーい」
「でも今は冷蔵庫に食材がないのでまず買い出しに行かなきゃ駄目ですよ!」
「うん。じゃあ行こっかー」
「ええ行きっ………ていうか、ほんとに全額出してくれるんですか? 出してくれるんですよね?」
「出すよ出すよお、好きなだけ買って」
「うわあああありがとうございますエミちゃんさあーん!」
「エミちゃんでいいってば」
「エミちゃんさあーん!」
「言いにくくないなら別にいいんだけどさあ、いや、絶対言いにくいよねえ?それ」
(………あれっ? なんかよく考えたらこの流れおかしくないですか?)
(いいじゃんいいじゃん。モーマンタイだよ!)
20200630再掲