エミちゃんとアユムくん、相変わらず


 

シチュエーション3:

アパートの自室で明日の講義の予習をしていたら、窓を蹴破って男が侵入してきました。

 

 

 

「ヒッ……ギャアアアアア! か、葛木の葛木によるヤザワコレクションがあああああ!」

「うーわあーごめんねえアユムくん、つい勢いつきすぎちゃってえ。………っていうか、あれっ?ナニコレ」

「葛木の葛木によるヤザワコレクションですよお!」

「えー? タオル?」

「エイキチ・ヤザワのコンサートグッズですとっても貴重なものなんですだからはやく退け馬鹿野郎!ですよ!」

「うら若きオトメがお口悪いぞお」

「葛木が口悪いならエミちゃんさんは頭が悪いです非常識です!」

「うーん、まあよく言われるよね。あっ、ていうか俺ハラ減っちゃったなあ。なんか食べるもんある?」

「あっても出しません! さっさと帰れ!」

「俺まだ酒残ってるから胃にやさしいものがいいなあ。湯豆腐食べたい、湯豆腐」

「だからありませんて!」

「あ、キムチあったあ。アユムくんこれ食べていー?」

「『胃にやさしい』からは程遠いですよキムチ!」

「いただきまー」

「うわあちょっと! まだ許可出してないのにい!」

 

 

 

 

「け、結局夕食一式を用意させられてしまった……こんなのまず間違いなく無駄な出費です……!」

「あー、そこんとこはダイジョーブダイジョーブ! ほら、今月の食費だぞお」

「すわっ!」

「さすがアユムくん、お金には目がないねえ」

「払ってくれるんですかエミちゃんさん!」

「うん。だって俺ご飯食べるとき大体外食かアユムくんとこだしね。貧乏なアユムくんからタダメシ頂くほど悪魔じゃないよぼかぁ」

「さっき窓蹴破って現れた瞬間は悪魔以外の何者でもありませんでしたが!」

「てことで、はい、3万円。足りなかったら言って?」

「じゅじゅじゅ充分ですこんな大金なんだか申し訳ないです返さないけど……!」

「ははは。俺アユムくんのそういうガメついとこ好きだなあ」

 

 

 

 

「ゴチソーサマでしたー。いやー久しぶりに食事らしい食事したあ」

「……エミちゃんさん、まさかまた連日飲み会を渡り歩くなんていう暴挙に出たわけじゃないですよね」

「とりあえず知り合いがいるとこしらみ潰しに行ってみたよねえ」

「みなさんにご迷惑掛けるのでやめなさいってこないだ言ったでしょうもう!」

「リアクションが母ちゃんみたいだぞおアユムくん」

「ていうか、それだけ飲みまくってたらほんとに体に悪いですよ? ただでさえ頭おかしいのに…」

「体調の悪化と俺の頭がおかしいことには直接的な因果関係はないと思うよ、たぶん」

「えっそうなんですか?」

「その衝撃の新事実みたいな顔やめて? ……あ、そういえばこれこないだ遊んだ女の子にもらったから、アユムくんにもおすそわけ」

「? なんですかこれ」

「コンドーム」

「いるかあ!」

「ええーっ性病予防のためには必須だよ若人!」

「生憎使う予定がありませんで!」

「そっかー、なら仕方ない」

「うわあ、う、…もうちょっと食い下がってほしかった!です!」

「なあにもう、アユムくんはわがままだなー」

「『アユムくんにだってイイヒトの一人や二人はいるでしょ?』とかそういうのが一切差し挟まれなかったことがちょっとだけ不満なだけです! 葛木こう見えても花の女子大生ですよ!」

「花の女子大生はこんなすきま風の厳しいアパートに住んでないよ」

「その風通しをさらに良くしたのはエミちゃんさんですけどね!」

 

 

 

 

「さあて、それじゃあ俺はそろそろまた次の飲み会に旅立つとするかあ」

「エミちゃんさん、いい加減タダ酒ばっかり飲んでたらいつか友達いなくなっちゃいますよ」

「そして誰もいなくなった……か」

「かっこよくないです」

「あっ、たぶん明後日には帰ってくるからそのときはまたご飯よろしくねー」

「帰ってくるっていうかあなたの部屋は隣のはずなんですが」

「そうだ。窓割っちゃったからさあ、足りるか分かんないけどこれで直して。はい、5万円」

「すわっ!」

「金でつれるアユムくんの今後が心配だよ俺はあ」

 

 

 

 

20200630再掲