<簡易人物紹介>
長男・茂(ハゲで苦労性)
次男・昇(ヤンキーがヒモしてますけど何か?)
三男・譲(タイガー・ウッズの後継者)
四男・尊(輝ける常識人)
父・富夫(ベストセラー作家。現在新婚旅行という名の世界一周旅行中)
母・妙子(異常に若づくりな元女優。おみやげは欠かしまへんで!)
『長男・茂(34)について教えてください』
三男・Y氏の証言
「え、なに、シゲ兄ちゃん? シゲ兄ちゃんがどうかしたの。
……あー、なんだ、シゲ兄ちゃんがどんな人か話せって? なにそれ、学校の宿題かなんか? いいよいいよ、で、内容はなんでもいーの? …おい、話せる範囲ならって、おれ別にシゲ兄ちゃんの性生活をバラそうなんて思ってないよ? そもそも知らねーしそんなん! え? そんなこと言ってない? そりゃそうだ。
まあとにかくシゲ兄ちゃんのことだろ? そんなら言えることいっぱいあるよ。兄弟だもん。
シゲ兄ちゃんはねー、とりあえず大倉家の大黒柱だね。あとハゲ。ハゲなんだよ、あの若さで。
確かおれと14コ離れてたから、今年34歳でしょ? それであの頭って、ないよ、ないない。でも幸いにしてカッパタイプのハゲ方じゃないのが唯一の救いだね。
シゲ兄ちゃんはさあ、前髪の生え際が後退してくるタイプのハゲなんだよ。あのー、ほらあれ、ヒガシコクバルさんみたいな感じ。おれ思わず大学受験のときおでこ触らせてもらったもん、なんかご利益あるかなと思って。まあそのおかげか無事合格して今に至りますけどね。
あ、そういやタケも3年後は受験だろ? 頑張れよー。高校の3年間なんてあっという間だぞ、マッハだぞマジで。まあ、お前は言わなくても頑張る奴だけどさ。
……って違う違う、シゲ兄ちゃんの話だよ、なんで受験の話してんだ? とにかくさ、さっきも言ったけどシゲ兄ちゃんはうちの大黒柱なんだよね。
富夫も妙子もあの通りパッパラパーだからさ、なんかいきなり新婚旅行とか行き出すし、新婚じゃないくせに新婚旅行って何なんだよって感じなんだけど、……あれからもう何年? 4年? うっそ、まだそんだけしか経ってねえの!まあとにかくそれ以来シゲ兄ちゃんがおれらの保護者やってくれてたわけじゃん。
おれすげー迷惑掛けたなー。夜中に補導されて警察まで迎えに来てもらったりしてさあ。仕事忙しいのに家のこともちゃんとやって、近所付き合いもして、その上おれらの世話だよ? 多分、だからあんだけハゲちゃったんだと思うんだよね。両親があんなパッパラパーじゃなきゃもっと幸せになれたはずなのに、ほんと可哀想だよ。
おれ、シゲ兄ちゃんはすげー好きだけど、あんな人生はやだなって思う。おれはもっと楽しく生きてたいね。女の子と遊んで、飲んで、好きなことしてさあ、……あ、でもちゃんと就職はするよ? ふつーの企業のサラリーマンになんの。そのへんはね、富夫を反面教師にするって決めてるからさ。
ん? なんか話逸れたな。こんくらいでいい? 総じてシゲ兄ちゃんは苦労性っていう結論なんだけど。
……よし、じゃあおれそろそろ出掛けてくるわ。これから合コンあんだよね。メシはそこの出前頼むか自分で作って。
……なに? こないだのさゆりちゃん? あー、まだ付き合ってるよ。あのなあ、彼女と合コンは別腹なの。お前にはまだわかんないかもしれないけどさ………
え? 友美ちゃんはどうしたって? そりゃまだ付き合ってるよ。
真希ちゃん?……も、まだ付き合ってるよ。
………ちょっ、おい、待って待ってそんなん言い出したらキリないじゃん! 説教とかやめろよおれ一応兄ちゃんだぞ!……あーもう、とにかくおれもう行くから! シゲ兄ちゃんが帰ってきたら冷蔵庫にビールあるよって言っといて!」
*
『三男・譲(20)について教えてください』
次男・N氏の証言
「おい、尊。譲の奴どこ行った。……はあ?合コン? ……あのバカ弟、逃げやがったのか。
チッ、ならいい。あー、くそ、パチンコで稼ぐか仕方ねえ。
……あ? 何だよ、聞きたいことがある? 譲がどんな奴かって? んなこと聞いてどうすんだよ。
……学校の課題? お前高校生にもなってまだそんなもん律儀にやってんのか、クソが付くくらい真面目だな。茂みたいな奴は二人もいらねえっつーの。あーうざってえ……
まあいいや、で? 譲のこと言やあいいのかよ。いいよ、暇だし付き合ってやるよ。
つーかあいつの事とか一言で十分だろ。『馬鹿』。それに尽きる。
……あ?それじゃ困る?じゃあ『下半身も馬鹿』。だってそうだろ。あいつ今何股してんだって話だよ。こないだなんて1時間の内に4、5人から連絡来てたぞ。馬鹿だろ。
元々女遊びは激しい奴だったけど、マジで馬鹿かってくらいになり出したのはあれだな、あの馬鹿親父どもが日本から消えた頃からだな。急になんだ、新婚旅行?とか言って居なくなりやがって、まあ俺はその頃もう実家出てたし、ムカつきこそすれ困る事はなかったけどよ。お前とか譲はあれだろ、ダイレクトに影響あったんじゃねえの? 茂の奴もいきなり仕事とお前らの世話器用にこなせる訳ねえし、最初はガッタガタだったろうしな。
特に譲なんか打たれ弱いから誰か近くにいないと駄目だったんじゃねえの。それがたまたま女だったってだけだ。まあ未だに治ってねえとこ見ると、単に性癖なのかもしれねえけどな。
こんくらいでいいか、もう言うこともねえし。
……んじゃ、ワリィが金貸せ。今月もうねえんだよ。譲にタカりに来たら逃げてやがるしよ。1万でいいから。あ?夏美? あいつは駄目だ、俺に金寄越す気ねえから。………うるせえぞヒモって言うな!」
*
『次男・昇(28)について教えてください』
長男・S氏の証言
「昇について? それはまた……いきなりどうしたんだ?……ああ、学校の。そっか、ならちゃんと答えないといけないね。
昇は……そうだな、小さい頃よく一緒に遊んだのを覚えてるよ。と言っても、あいつは6つ下だったから、俺が遊び相手になってた感じだけど。昔はね、よく俺の後ろを追い掛けるみたいに付いてきて、シゲ兄ちゃん、シゲ兄ちゃんって、呼んでくれてたんだけど、今はもう流石にね。
中学生くらいになってから、反抗期だったのかな、あんまり家に寄り付かなくなって、それくらいから俺とも話してくれなくなったな。あいつ、顔が結構強面でしょう。だから絡まれる事が多かったみたいで、しかも喧嘩も強かったらしいから、だんだんそういう友達が増えてね。父さんともしょっちゅう喧嘩してたなあ。
譲や尊は覚えてないかもしれないけどね、昔の父さんはすごく厳しい……こう言ったら何だけど、少し高圧的な人だった。多分、あの頃はまだ作品も売れてなくてカリカリしてたんだろうね。特に昇とは反りが合わなくて、毎日のように殴り合いの喧嘩をしてたよ。
昇自身はね、素行はあれだけど、すごく優秀な奴だった。法律家になりたかったらしくて、大学では法学部に進んで……って、これは尊も知ってるか。でも、本当に頭の良い奴なんだ。自慢の弟だった。
だけど今は、なんて言うか、夏美さんに頼りっぱなしで……まだ若いんだし再就職もやろうと思えばできるだろうに。さすがにいつまでも夏美さんにおんぶに抱っこのままでじゃ、ね。結婚しろって独身の俺が言えた義理じゃないから、何も出来ないのが歯痒いけど……
あ、なんか喋り過ぎたかな。大丈夫かい?……よかった、それじゃあ、課題頑張るんだぞ。
……え?冷蔵庫の中にビール? ああ、譲か。分かった、あとでありがとうって言っておくよ」
*
『四男・尊(16)について教えてください』
三男・Yより
『いつもしっかりしてる大倉家の秘蔵っ子! 頭いいし、料理上手いし、絵も上手いよな。あと、おれの弟だけあってかなりモテる! おれもちょっとクールぶってみよっかなー』
次男・N
『茂2号。ガキの頃から優等生で、その癖愛想はなかった。親父どもが居なくなった時も割かしさらっとしてたらしいし。つーか譲、金貸しやがれ』
長男・Sより
『美大、行きたいなら我慢しなくていいからな。それくらいなら何とかするから。お前はやりたいことをしていいんだよ、尊』
「………わざわざ僕の分まで答えなくてよかったのに。それもこんなメモ用紙にぎゅうぎゅうに……伝言まで混じってるじゃないか」
──でも、どうせならこんな紙切れじゃなくて、みんなで集まって話がしたかったよ。
ユズ兄、ノボ兄、シゲ兄。