ある朝、ガヨは言いました。

「そうだ、夜を探しにいこう」

 ガヨはベッドから起き上がると、いそいそと大きなバスケットを取り出しました。

 その中においしそうなサンドイッチをひとつ、ふたつ、みっつ。チーズとハムとレタスを挟んだやつです。バスケットに納めている間に、ガヨの口からはたらりたらりと涎があふれ出して、いつの間にやらバスケットがいっぱいになっていました。

 ああ、しまったしまった。ガヨは慌てて涎をかき出すと、あついココアの入った水筒を入れました。ついでに、おやつのチョコレートも入れました。しろいのと、くろいのを、ひとつずつです。

「さあ、夜を探しにいこう」

 ガヨはバスケットを腕に掛けて、意気揚々とドアノブをひねりました。

 けれども、いやいやうっかり、まだパジャマを着たままじゃないか!

 ガヨは顔を真っ赤にして、クローゼットに走り寄りました。

 戸を開けると、ハンガーに掛かった色とりどりの洋服がずらりと並んでいます。ガヨはお気に入りの真っ白なシャツを手にとって、ベッドの上に広げました。パジャマを脱いで、うきうきとシャツを被り、さあ、今度こそ!

「夜を探しにいくんだ」

 ガヨはもう一度バスケットを腕に掛けて、ドアノブをひねりました。

 がちゃりと金具が音をたてて、ドアがゆっくりと開いていきます。

「夜はどこにあるのかな……」

 

 ―――バン!

 

 ガヨの目の前は真っ暗になりました。

 ああ、夜はこんなに近くにあったんだ。

 探していた夜が見つかって、ガヨはとってもうれしそうに、にこにこと笑いました。

 

 

 

 

「やったか、レド」

「―――ああ、やった、やったよ、アノレ」

 レドの足元には、大きなバスケットから飛び出したみっつのサンドイッチや、あついココアの入った水筒が転がっていました。

 ついでに転がったおやつのチョコレートを踏みつけて、アノレはぷかぷかと煙草をふかします。

「じゃあとっとと上に連絡しちまうぜ。早いとここれを回収しに来てもらわにゃならん」

「そうだな」

「ったく……手間掛けさせやがってよォ」

 そう言うと、アノレはジャケットの懐から携帯電話を取り出して、どこかに電話を掛けました。

 ふらりと背中を向けて離れていくアノレを見ることもなく、レドはずっと地面に散らばったものを眺めています。

 拳銃を握ったままの右手は、まだ少しびりびりと痺れていました。

「……馬鹿だな、お前」

 出てこなければ、殺されることもなかったのに。

 吐き捨てた先に転がっていたのは、真っ白なシャツを真っ赤に染めた、みにくいみにくい怪物の姿でした。

 みにくいみにくい怪物の顔は、けれども、にこにことうれしそうに笑っています。

 

 夜を探しに出かけたその怪物の名は、ガヨと言いました。

 

 

 

 

20110106

20130905改訂(20200630再掲)

 

 

短いお話をひとつ聞いてよ